大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岐阜地方裁判所 平成3年(わ)139号 判決

本件所在地

岐阜市城東通五丁目五番地

法人の名称

丸杉金属興業株式会社

(右代表者代表取締役 杉山茂夫)

本籍

同市城東通五丁目五番地

住居

右同所

会社役員

杉山茂夫

昭和九年七月一六日生

本籍

岐阜県羽島郡笠松町無動寺九番地の五

住居

右同所

会社役員

髙橋達雄

昭和一七年一〇月二六日生

右三名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官西本仁久出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人丸杉金属興業株式会社を罰金一八〇〇万円に、被告人杉山茂夫を懲役一年に、被告人髙橋達雄を懲役一〇月に各処する。

一  被告人杉山茂夫、被告人髙橋達雄に対し、この裁判確定の日からいずれも三年間右各刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社丸杉金属興業株式会社は、岐阜市城東通五丁目五番地に本店を置き鋼材加工販売業などを営むもの、被告人杉山茂夫は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統轄するもの、被告人髙橋達雄は、同会社の常務取締役として代表取締役の右職務を補佐する立場のものであるが、被告人杉山茂夫、被告人髙橋達雄は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、共謀のうえ、架空仕入れを計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、昭和六二年六月一日から同六三年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が九億一九七四万八一六六円であったにもかかわらず、同六三年八月一日、同市加納清水町四丁目二二番地の二所在の所轄岐阜南税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七億〇二九六万〇〇二七円で、これに対する法人税額が二億七八一九万二〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告額との差額九一〇五万円の支払いを免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人会社代表者及び被告人杉山茂夫、被告人髙橋達雄の当公判廷における各供述

一  被告人会社代表者及び被告人杉山茂夫、被告人髙橋達雄の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  山田晋也、西原道孝、三谷和教の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  白井弘、青山宏、中川哲樹、坂井雄三(二通)、田中玉郎(三通)、向井稔(四通)、横山洋司(二通)、杉山政隆、山田敏博(二通)、鈴木敏司、守田義正、中島勲、松田武久、岩田孝市の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の証明書三通(丸杉金属興業株式会社に係るもの)、査察官調査書二通、調査報告書二通

一  検察事務官作成の捜査報告書八通

一  登記簿謄本三通

(事実認定の補足説明)

本件は、関係証拠により、被告人丸杉金属興業株式会社(以下「被告人会社」という)が昭和六三年五月期の決算期において、被告人会社の利益の一部を仮装のペーパー取引等により、丸杉土木建設株式会社(以下「丸杉土木」という。旧商号は丸杉土木工業株式会社)及び日本鐵建株式会社(以下「日本鐵建」という)に、それぞれ移し替えたこと、右利益の移し替え行為は被告人杉山と被告人髙橋が相談のうえで為したことが認められ、この点については、当事者間に争いもない。

弁護人は、後記日本鐵建関東工場(以下「関東工場」という)、丸杉土木東京店(以下「東京店」という)は、いずれも被告人会社が、丸杉グループ関連会社の名義を借りて経営するもので、その損益は被告人会社に帰属するところ、本件各行為は、右両社の欠損を補填したにすぎず、脱税に該当せず、無罪であると主張する。

関係証拠によれば、更に次の事実が認められる。

一  被告人会社は、製鉄原料、鋼材の加工並びに販売等を主目的とする資本金九〇〇〇万円の会社で、肩書記載のとおり岐阜市内に本店をもち、中部圏では大手で、日本鋼管株式会社の重点特約店として鋼材を日本鋼管から安価で仕入れができる立場にあり、被告人杉山茂夫(以下「被告人杉山」という)はその代表取締役に、被告人髙橋達雄(以下「被告人髙橋」という)は常務取締役に就いている。日本鐵建は、昭和四八年被告人会社の建設資材部から独立し、橋梁、水門等の建築・土木の設計監理及び請負業、鋼材の販売及び加工組立請負等を主目的とし、本件当時の資本金一億五〇〇〇万円の会社で、被告人髙橋が代表取締役に就いている。丸杉土木は、昭和五七年丸杉土木工業株式会社として被告人会社の土木資材部から独立したもので、土木建設用機械器具及び資材の販売、ガードレールや水処理等の土木建設の設計及び請負等を主目的とする資本金一〇〇〇万円の会社で、代表取締役に被告人杉山及び小川隆が、取締役に被告人髙橋が就いている。

被告人会社は関連会社一六社で丸杉グループを形成し、右グループの役員会を被告人杉山、被告人髙橋の外被告人会社の常務取締役西原道孝で構成し、生産計画、人事、各会社の販売目標、生産目標、各社の採算状況等を協議しており、また取締役会なるものがあり、これは各グループ会社の店長以上が出席し、販売、収支、成績等を協議するが、いずれの会議でも議事録は作成されない。被告人髙橋の地位については、被告人会社に関しては常務取締役として月四、五回随時行なわれる被告人杉山との打ち合わせの場で会社の経営について意見を出すが、実務的担当はなく、同社から格別の役員報酬は得ていない、その他日本鐵建の代表取締役として経営全般を統轄管理し広く実務権限を有し、また丸杉土木の代表取締役は小川隆だが実質的には副社長の被告人髙橋が実務面の統轄管理者である。ただし、被告人杉山は丸杉グループの会長として実権を握っており、日本鐵建や丸杉土木の経営に関しても事実上最終決定権を有している。

二  関東工場開設の経緯

1  被告人会社は、中部地方を本拠としていたが、関東地方への進出を企図し千葉県の千葉鉄工業団地に工場を建設操業しようとしたが、右団地の共同組合に加入する必要があったところ、被告人会社は卸売業者と認定され、加入資格がないため、加工業者の日本鐵建として申込んだという経緯がある。

2  関東工場の用地購入資金は日本鐵建が大垣共立銀行城東支店で借入れし、工場建設資金及び機械設備は日本鐵建が千葉県から中小企業髙度化資金として借入れし、昭和六一年四月約一八億円をかけ工場が完成し五月から操業を開始した。同工場では建築用重量鉄骨建材を商社、特約店(昭和六一年六月から八月までの当初は被告人会社から材料を仕入れ、同社に代金を支払ったが、その後被告人会社からの仕入れはなくなった)から仕入れ、その切断、穴明、開先(溶接部分の溶けこみを良くするための処理)、ショットブラスト加工(ボルト接合面の摩擦処理)、BH加工(プレートを溶接してH型鋼にする)等の一次加工を主たる業務とし、関東工場の面積が小さいため日本鐵建本来の橋梁関係の仕事はできないこと、もっとも日本鐵建の岐阜工場でも橋梁関係等の請負が主事業ではあるが、鋼材の精密切断、穴明、開先等に係る事業内容も含まれていること(各工場の設備概要から明らかであり、関東工場の工場長山田敏博の捜査段階の供述は信用でき、他方公判廷供述は信用できない)、関東工場は独立採算制をとり、殆どの従業員を日本鐵建で現地採用し、費用、収入等は日本鐵建で処理し、最終的には日本鐵建の岐阜工場の収支と合算して申告するが、粗利は出ているものの、立上がり資金として銀行から多額の借入れをしその金利等で赤字となり、昭和六二年二月期で約六〇〇〇万円、昭和六三年二月期で約九〇〇〇万円の損失を計上した。なお日本鐵建は昭和六三年七月関東工場の隣に新工場を建設し、ホーミング加工(コイル材を切ったスリットコイル鋼材を加工して軽量鉄骨を作る作業)を行なっているが、材料は被告人会社のものを使用し関東工場としては加工のみを行ない、被告人会社に加工賃を請求している。

三  丸杉土木東京店開設の経緯について

1  株式会社イワタ(以下「イワタ」という)は、名古屋市に本店を置き、鉄の二次製品の加工販売、ボルトナットの製造を主目的とする会社で、昭和五六年頃事業を拡大して東京地方進出を図り、東京支店を開設し土木仮設資材のリース業を行なうようになったが、業績が低迷していたため、代表取締役岩田孝市は東京からの撤退を決め、昭和六〇年二月頃鋼材を仕入れていた被告人会社の代表取締役被告人杉山に東京支店の引継ぎを依頼した。同年三月末ころ引継ぎの合意ができたが、書面の取交わしはなく、昭和六〇年四月二二日丸杉土木が引継ぎ丸杉土木東京店となった旨の案内状が各取引先に配付されたが、岩田やイワタ東京店店長であった守田義正は引継ぎ相手について、何故丸杉土木になったのか理由はよく知らされてはいないし、同社が名目のみで実質は被告人会社が引継いだとも聞いたことはないと述べている。被告人会社の常務取締役西原道孝は、イワタの仕事が土木資材のリースなので共通面のある丸杉土木が引継いだものと考え被告人会社が事実上引継いだとは考えていない。

2  前記イワタの大口取引先が昭和六〇年四月三〇日、五月一日と手形不渡を出して倒産し、そのあおりで、イワタも五月上旬大口不良債権が発生して経営が行き詰ったうえ、昭和六〇年五月二五日、六月二五日と手形不渡を出して倒産し、岩田は五月二五日の一、二日前から行方不明になった。丸杉土木東京店はその後業績が伸びず昭和六一年三月、同六二年三月と多額の赤字を出した。

3  日本鋼管株式会社は、被告人会社に一〇パーセントの資本が入っている関係で、被告人会社に対し毎期決算書の提出を求めているが、これは経営成績というより、今後の経営計画を知るためのものであり、帳簿書類を監査することはない。

四  被告人杉山、被告人髙橋の供述

1  関東工場について、被告人杉山らは、本件の各利益の移し替えは、関東工場は本来被告人会社が進出する予定のところ前記の事情で被告人会社名ではできなかったため日本鐵建の代表取締役被告人髙橋に指示し日本鐵建の名義を借りていたのであり、立上がりの三年間は赤字が予測され、被告人杉山と被告人髙橋の間で損失は被告人会社で負担するとの合意もあったが、被告人会社としてもなかなか業績が伸びず、日本鋼管の会計監査が年二回あり、赤字が出ると問題とされるため、対外的に被告人会社の信用を保つため粉飾決算で約一億円の黒字を計上していた状況にあって、その補填をすることができずにいて、今回ようやく被告人会社に利益が出たので補填をしたもので、関東工場における損益は、被告人会社に帰属するものであり、今回の被告人会社の行為は、利益の出た当該期にこれまでの損失(繰越損失約一億五〇〇〇万円)を埋めたものに過ぎないと供述する。

2  東京店についても、前記のとおり、被告人杉山は岩田からイワタ東京店の引継ぎの依頼を受け、被告人会社がその名で引受けることになったが、その一〇日後には岩田本人が行方不明になったこと、その影響で被告人会社自体が信用不安となり、被告人会社としては対外的に赤字の計上を避ける等の必要から、被告人杉山が被告人髙橋に対し、丸杉土木の名義で引受けるよう指示した。その際損失は被告人会社で負担する合意もできた。今回の被告人会社の行為は、前同様利益の出た当該期にこれまでの損失(繰越損失約二億円)を埋めたものに過ぎないと供述する。

3  なお、被告人会社と日本鐵建の間の昭和六〇年五月付の覚書なる書面には、「1被告人会社は日本鐵建の名義で日本鋼管株式会社から仕入れし関東地方に販売する権利を得る。2被告人会社は日本鐵建の名義を以て関東地区に工場を設置する。3商品製品の売買により発生する損益及び上記工場建設により発生する損益はすべて被告人会社に所属するものとし決算期毎に清算し日本鐵建は損益を零とする。」の記載が、また、被告人会社と丸杉土木間の、昭和六〇年六月付の覚書には、「被告人会社は営業承継していた株式会社イワタ東京店の営業内容が急変した事により次の事を条件により丸杉土木が名目的営業承継することにした。1丸杉土木において名目的営業承継した株式会社イワタ東京店の整理に当って発する一切の損益は被告人会社がこれを弁償する。」の記載がある。右各覚書は平成元年三月三〇日に被告人会社本社で日付を遡及させてパソコンで印字されたものであるが、被告人杉山及び被告人髙橋はそのもととなる昭和六〇年五月か六月付の右両名のみが知る同趣旨のメモが存在し、これは本社でパソコンによる浄書をしたあと直ちに廃棄してしまったと供述している。もっとも右メモの体裁については、両名の署名の有無について関係者の供述が一致せず、被告人杉山は、被告人杉山の署名と被告人髙橋の署名押印があったと言い、被告人髙橋は、当初は被告人杉山の署名があったか確認していないが被告人髙橋自身の署名がないのははっきりしていると供述し(被告人髙橋の大蔵事務官に対する平成元年五月一九日付質問てん末書)、その後は、被告人髙橋は署名したが押印はしていないと供述しており(被告人髙橋の検察官に対する供述調書)、また平成元年三月三〇日被告人髙橋からメモを見せられ相談を受けた税理士田中玉郎は、メモには会社印押印や被告人杉山、被告人髙橋らの署名はなかったし、押印等があれば重要書類として保管するはずであると供述しており、供述が食違っている。関係者は前記覚書の作成日付を当初昭和六〇年五月、六月に作成したと虚偽を述べていた。なおメモの内容事項は丸杉グループの役員会等に議事として上げられていない。

五  以上の事実を前提に検討すると、

1  関東工場については、確かに被告人杉山は当初被告人会社で開設経営する予定でいたこと、従ってその業務内容も被告人会社のそれに合致していることは明らかである。しかしながら、鋼材の穴明、開先等の加工も日本鐵建岐阜工場において一部扱われていた作業内容でもあり、日本鐵建として経営することが不可能という程ではないこと、関東工場は立上がり当初は被告人会社から材料を仕入れて同社に代金を支払っており、関東工場が被告人会社のものであることとは矛盾すること、経営の人的物的設備等も日本鐵建としてなされていると認められる等の点に照すと、関東工場は名実共に日本鐵建の経営するものであると認めるのが相当である。

2  丸杉土木東京店については、当初岩田が被告人杉山にイワタ東京店の承継を依頼したことはある。しかし引継ぐ会社が丸杉グループのうち被告人会社に限定される理由はないのであり(岩田は公判廷で、丸杉土木でなく被告人会社による引継ぎを求めたかの供述をしているが、捜査段階の供述と異なる上、引継ぎ先をそのようにこだわる合理的説明もないので信用できない)、被告人会社の常務取締役西原すら被告人会社の引受けを知らないこと、丸杉土木名で取引先に引継ぎの案内状を出したのが昭和六〇年四月二二日であるから、被告人杉山の言分によれば被告人杉山はその以前に代表取締役の岩田が行方不明になる等イワタの経営が危機に瀕するという事態にあって、被告人会社でなく丸杉土木名義の引継ぎを決定したことになるが、前記のとおりイワタの経営が行き詰ったのは同年五月に入ってからと見られること、岩田の公判廷供述によっても行方不明となったのは同年五月下旬であること、日本鋼管株式会社は特に被告人会社の経営成績を重視していなかったと認められることからすると、被告人会社が一旦引継いだイワタ倒産のあおりを食うことを恐れて急遽名目のみ丸杉土木に引継ぎをさせたという事情はなかったというほかはなく、丸杉土木が名実共に引継いだものと認めるのが相当である。

3  なお本件覚書やその元となったメモについても付言すると、前記認定の事情と、重要なメモを簡単に破棄することは通常考え難いこと、またその重要性に鑑み丸杉グループの役員会に議事としてあげられるべきであるのに、それがなされていないこと等からすると、平成元年三月三〇日に被告人髙橋がメモなるものを持ってきたことは明らかであるが、それが昭和六〇年五月、六月に作成されたものであるとは到底認められず、国税局調査の対策として作成されたものと認められる。またこの事実は、そもそも被告人会社と丸杉土木、日本鐵建との間の損失補填の約束の存在、ひいては約束に至る事情の存在について疑問を抱かせるものといえる。

6 結論

以上のとおり、関東工場、丸杉土木東京店はいずれも実質的にみても、日本鐵建ないし丸杉土木のものと認められ、被告人会社が名義借りをしたものではないというほかなく、被告人杉山、被告人髙橋の各弁解は信用できず、これを前提とする弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

一  判示所為 法人税法一五九条一項、被告人杉山及び被告人髙橋については更に刑法六〇条、被告人会社については、さらに同法一六四条一項、なお情状により同法一五九条二項も適用

一  刑種の選択 懲役刑選択(被告人杉山及び被告人髙橋につき)

一  刑の執行猶予 刑法二五条一項(被告人杉山及び被告人髙橋につき)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例